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新潟家庭裁判所 昭和53年(少ハ)1号 決定

少年 D・T(昭三三・三・二六生)

主文

本人を昭和五三年五月一八日から六ヵ月間中等少年院に継続して収容する。

理由

1  本件申請の要旨は、「本人は、昭和五二年五月一八日、中等少年院送致決定を受け、同月一九日新潟少年学院に入院し、直ちに二級下に編入され、同年六月二日農耕科に編入、同月一六日二級上に、同年九月一六日一級下に、同年一一月一日一級上に各進級したものであるが、その間の問題点解決の推移は、一時低調の時期もあつたが、最近は再び自己の内面に目を向け、他人に対する配慮を示して積極的に援助するなど更生の意欲が認められ、進歩・改善の跡がかなり顕著である。そこで可能な限り早く社会内処遇に移行し、社会生活への定着を図るのが適当であると考えられるので、昭和五三年四月七日を希望日として仮退院を申請中であるが、本人には、いまだ自己中心的で独りよがりな見方、考え方をし、欲求本位の反応を示しやすく、被影響性が強いなど性格上の問題点が残存しているうえ、引受人である父親との対立感情が完全には払拭されていない事実があるので、このような理由から再び不良交友、無断外泊等を行い非行に陥る懸念もあり、就職先の未定という不安要素をも考慮すると、保護観察を行うため収容期間満了の日から六ヵ月間の収容継続が必要である。」というにある。

2  よつて審按するに、本件申請のように、専ら仮退院後の保護観察期間を延長するためになす収容継続は、本人の犯罪的傾向が未だ十分に矯正されていないため、収容期間の満了後も引続き保護観察に付することがその再非行の防止のため必要不可欠であると認められる場合に限つて許されるものと解されるところ、審判における本人及び本人の父、新潟少年学院分類保護課長○○○○の各供述並びに当庁調査官○○○○の調査報告書その他の一件記録によれば、次の(1)ないし(3)の事実が認められる。

(1)  本人は、当庁昭和五二年少第四六一号、四六二号、四六三号、四七八号、五四六号(各窃盗保護事件)、同第四七七号(窃盗未遂保護事件)で、昭和五二年五月一八日当裁判所により中等少年院送致決定を受け、同月一九日新潟少年学院に入院し、直ちに二級の下に編入され農耕科に入つた。同年六月一六日二級の上に進級したが、独りよがりで自己表出を嫌う等の性格上の問題点が災いして進歩が遅く、同年九月一六日に漸く一級の下に進級した。この頃から自己の問題点の解決に格段の進歩を見せ、同年一一月一日には一級の上に進級し、同年一二月一四日には仮退院の申請がなされる等極めて順調な経過を辿つた。しかし、同月末頃、本人のそれまでの反省・努力には表面的なものが多く、その行動に二面性がある等の問題点が指摘され、この点につき新たな指導を加える必要が生じたため、仮退院の希望日が当初の予定より一ヵ月先の昭和五三年四月七日に延期されるに至つた。しかしながらその後は本人の反省もあつて現在では同日頃に仮退院を許可される可能性が大きい。なお、同学院院長としては、少年院法一一条一項但書に基づき、同年五月一七日まで本人の収容を継続する予定である。

以上のように約一〇ヵ月に及ぶ矯正教育の成果により、本人においてはかなり性格的に改善を見たものの、新潟少年鑑別所の鑑別結果に指摘された、自分本位で独りよがりな見方、考え方をする傾向、欲求本位の反応をする傾向という問題点は未だ十二分に解決されたとは言えず、特に社会内で如何に反応するかについては相当危惧の念を抱かせるものがある。

(2)  本人は本籍地の両親の許に帰住する予定であるが、本人の家出、外泊の大きな原因となり、それゆえに非行の遠因となつた父親との対立感情は、在院中の少年及び父親双方の反省により相当改善されているように見受けられるものの、共同生活を毎日恙なく送つていけるかについては未だ相当の不安が残存している。

(3)  前記窃盗及び窃盗未遂の各非行は、本人の仕事の切れ目にいずれも小遣銭欲しさに敢行されたことを考えると、本人には定職につけさせることが何よりも肝要であると思料されるのであるが、本人は現在稼働意欲を持ち運送会社に就職することを希望しているものの、未だ具体的な就職先は全く定まつていないのは勿論、近い将来適切な職業が見つかる見通しもない。

上記認定の事実からすると、現在の状態のままで本人を退院させるときは、再非行を犯す恐れが強く、未だ犯罪的傾向が矯正されていないものと言わざるを得ないし、上記(1)ないし(3)に指摘した本人及びその環境の問題点は、いずれも保護観察所による専門的指導・援護による改善に適したものであり、両親は従前の保護司に対し本人について在院中も時折相談してきていて、寧ろ相当期間保護観察が継続することを期待している実情にあることをも勘案すると、仮退院後少なくとも半年以上の保護観察を継続させることが、本人の再非行防止のため必要不可欠であると認められる。

よつて、前記の期間の満了する昭和五三年五月一七日の翌日から更に六ヵ月間収容を継続することとし、少年院法一一条四項を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 満田明彦)

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